読書録

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『海も暮れきる』

『海も暮れきる』  新装版  吉村昭 講談社文庫  581円

まずは裏表紙の解説文です。
「咳をしてもひとり」「いれものがない両手でうける」───自由律の作風で知られる漂白の俳人・尾崎放哉は帝大を卒業して一流会社の要職にあったが、酒に溺れ職を辞し、美しい妻にも別れを告げ流浪の歳月を重ねた。最晩年、小豆島の土を踏んだ放哉が、ついに死を迎えるまでの激しく揺れる八カ月の日々を鮮烈に描く。

昭和23年夏、21歳の吉村昭は死を賭して胸郭成形術の手術を受けました。局部麻酔による過酷なものです。あとがきに「読書が唯一の慰めであったが、活字を読むと疲労が甚しく、書籍はもとより新聞すら読むことが不可能になった」「病床で俳句を読むようになったのは眼に負担をかけぬためであった」と述べています。中でも尾崎放哉の句の孤独な息づかいが、同じ病の心を激しく動かしたのだそうです。

吉村昭に『月夜の記憶』(講談社文芸文庫 1500円)という随筆集がありますが、『海も暮れきる』と合わせ読むと、吉村の死生観と最晩年の尾崎放哉の生きざまがより深く見えてきます。
───放哉の句の中で、一句選べといわれても当惑するが、〈葬列 足早な足に暮色まつはり〉という句が、殊に私は好きだ。この一句に、すぐれた短編小説を読む思いだ───(随筆集「わが愛する歌」より)とこころを寄せています。
尾崎放哉との出会いは、文筆家吉村昭にとって必然のことだったのかもしれません。

文庫版の『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫 903円)も出版されています。
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by m4s1o3u6e2n9t1n7y | 2012-06-05 09:14