読書録

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『ブリューゲルへの旅』

 ブリューゲルへの旅   中野孝次  文春文庫2004年刊  590円

 裏表紙の解説文に「1966年、ウイーン。41歳の著者は憂鬱をもてあましていた。そして〈雪中の狩人〉に出会う。絵が〈ここがお前の帰って行くべき場所だ〉と語りかけてくる。16世紀フランドル地方の謎の民衆画家、ブリューゲルの不思議な作品群をたどりつつ、若き日の懊悩、模索、西洋文明への憧憬と決別を語り尽くした名著。中野流人生哲学の源」とあります。
 


━「そもそものはじめは紺の絣かな」とうたった詩人がいて、わたしはこの句にひどく感心した。しかし考えてみると、わたしは幼時に紺絣を着たことがないのだから、つまりまさにその経験がないということのためにとくにこれにいかれてしまったような気が、しないでもない。昭和初年、千葉県市川市はすでに東京のベットタウンであり、小学生に着物を着る習慣はなかった。と同時に、この郷愁句が思い浮かべる安定した変らぬ生活の実体というものも、そこにはなかったような気がする。━という書き出しで、この随想集ははじまります。

「そもそものはじめは紺の絣かな」は安東次男の句(『裏山』所収)ですが、「紺絣春月重く出しかな」(飯田龍太『百戸の谿』所収)を思います。中野は「紺絣」を原点回帰の出発点にして、ブリューゲルへの旅に出てゆきます。俳句は「一個の完結したイメージ以上のもの」と言ったのは2004年正岡子規国際俳句賞を受賞したアメリカの詩人ゲーリー・スナイダーですが、この随想録に俳句が息づいています。
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by m4s1o3u6e2n9t1n7y | 2012-05-21 08:51

『芭蕉全句集』『芭蕉全発句』


 まずは裏表紙の紹介文です。

『芭蕉全句集』  雲英末雄 佐藤勝明  角川ソフィア文庫  1238円

後に「俳聖」と呼ばれ、俳諧をそれまでとは比べものにならない高みへ引き上げた
松尾芭蕉。そのすべての発句を取り上げ、1句1句に出典・訳文・制作年次・語訳・
解説を付した。また、全句を季語別に編集して配列。芭蕉の各題への取り組みや、
「稲雀」「椎の花」などの新たに開発された季語、斬新な無季の発句の姿を浮かび
上がらせる。芭蕉の「不易流行」の基本理念が凝縮された980余句の集大成。
俳句実作にも大いに役立つ一冊。



『芭蕉全発句』  山本健吉       講談社学術文庫   2000円

国文学に通暁し、実作と研究双方のよき理解者たる文芸評論家が、渾身の情熱を
注いで正面から俳聖に挑む。全句の訓詁注釈を通して実景、実感、伝記的事実、
言葉の意味、詩性━━芭蕉の世界に迫り、「軽み」論から「いのち」と「かたち」へ、
日本人の魂に根ざす文学的本質へと読者を誘う。今日の俳句・短歌隆盛の礎と
なった不朽の一冊。(解説 尾形 仂)


この2冊、それぞれ季語別・年代別に編まれています。
『芭蕉全句集』には人物一覧・地名一覧・底本一覧・三句索引が、
『芭蕉全発句』には三句索引・季語索引がついています。

「昨日の我に飽くべし」(『俳諧無門関』)これは芭蕉が好んで口にしていた
言葉だそうです。
300年前の暮らしを思いつつ、980余句を毎晩数句ずつ読んでいったら、
あるいは今の自分を越える手立てが見えてくるかもしれません。
この2冊の他に加藤楸邨が『芭蕉全句』(絶版)を上梓しています。
学者・評論家・俳人の揃い踏みです。研究による地図、浪漫に満ちた地図、
ひたむきな情熱に裏打ちされた地図、
どの地図が今の自分に一番あっているのか考えて、
芭蕉の足跡を辿る旅にでるのによい季節ではないでしょうか。
夏ははじまったばかりです。
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by m4s1o3u6e2n9t1n7y | 2012-05-07 22:08