読書録

nikkogekko.exblog.jp

『手紙歳時記』    黒田杏子 白水社刊 2000円



2012年11月25日発行の書き下ろし本です。
「句界の偉才が、先達や友人など十二人との交流の基ともなった手紙の魅力を、存分に引き出す。」と紀伊國屋書店BookWebに紹介されています。このサイトに黒田先生のさまざまなご本65冊が網羅されています。

『手紙歳時記』の目次です。
一月 敢然と立つ波の上―磯見漁師斉藤凡太の俳句修行
二月 俳句のある人生―アメリカの女性外交官アビゲール不二の挑戦
三月 韋駄天杏子立ち往生―酒仙学者暉峻桐雨宗匠の教え
四月 サンパウロの桜守―日本人西谷南風と俳句
五月 蒼い目の太郎冠者―ドナルド・キーン薫風の日々
六月 青梅雨の榊一邑―莫山・美代子大往生
七月 涼しさのあんず句会―名付け親瀬戸内寂聴先生とともに
八月 盆の月を仰いで―山本けんゐち岩木山山麓の病室より
九月 長き夜を遊びつくして―東京やなぎ句会の兄貴たち
十月 秋灯女三代―大津波の後の菅原和子・有美・華の未来
十一月 冬銀河を遡る―俳句少年小田実
十二月 大晦日の饅頭ベストスリー―道楽学者歌人鶴見和子の生き方

大切な手紙が月ごとに紹介されています。手紙の向うにある世界と、そこに織りこまれている俳句作品から四季の美しさ、人生の哀歓が浮かびあがってきます。

3・11の大震災から1年9ヵ月がたちました。
十月の章から、週刊朝日の臨時増刊2012・2・20号、「復刊アサヒグラフ」の古川日出男(福島県郡山市生れの作家〉の一文を思い出しました。

「愕然としながら、僕は、この日本という国が〈以前とは様相を異にして流れている時間〉の国になったのだと、改めて認識しました。以前通りの時間を生きている人たちもいるでしょう。被災地以外の場所におれば、それも仕方のないこともかもしれない。しかし、事実はそうではないのです。だから、忘れてはならない。」
古川は2011年7月と2012年1月に母校の小学校を訪れています。夏の除染作業から半年、グラウンドには太陽光発電のモニタリングポストが設置されていたそうです。

黒田先生は福島県文学賞の審査委員もなさっています。

文章に引き込まれて一気に読んでしまいましたが、言葉ひとつひとつに深い意味がこめられています。じっくり読みこんでこその一冊だと思いました。
人にはそれぞれ与えられた場所がありますが、俳句という文芸を介して、そこで恵まれた人々との出会いを大切にするこころの働かせ方があざやかに描かれています。
[PR]
by m4s1o3u6e2n9t1n7y | 2012-12-14 11:51