人気ブログランキング | 話題のタグを見る

読書録

nikkogekko.exblog.jp

大人のための俳句鑑賞読本

時代を生きた名句    高野ムツオ NHK出版    1200円

 これまでにさまざまな俳句鑑賞読本が刊行されていますが、今回とりあげる高野ムツオの鑑賞読本は3・11以降を生きる私たちへのメッセージであると思いました。

序章 「災禍を超えて」では仙台での震災体験とともに、〈寒昴たれも誰かのただひとり 照井翠〉〈孑孒に会いたるのみの帰宅かな 小原啄葉〉〈三月十日十一日も鳥帰る 金子兜太〉の三句を鑑賞し、つぎに阪神淡路大震災時の〈ただひとりにも波は来る花ゑんど 友岡子郷〉〈寒暁や神の一撃もて明くる 和田悟朗〉〈枯草の大孤独居士ここに居る 永田耕衣〉の三句、最後に敗戦、9・11、アメリカ軍のタリバン政権への攻撃に言及して、〈二千年終る閂真一文字 桂信子〉〈一九九九年極月にふはり居り 矢島渚男〉〈戦争がはじまる野菊たちの前 矢島渚男〉を鑑賞しています。

「俳句は瞬間を詠う詩です。その瞬間には、作句に至るまでの作者が生きてきた過程、生き方、さらには境遇や時代が反映されています。その時代や人生をさまざまな角度から鑑賞していくとき、十七音に湛えられた豊かな言葉の世界が現出していきます。前〈NHK俳句〉撰者の著者が名句205句を丹念に読み解きます」と帯で紹介されています。

三章の構成になっています。
〈第1章生と死のはざまで〉〈第2章 復興の道のり〉〈第3章 来し方行く末〉、それぞれ重いテーマですが、作家ひとりひとりの人生に寄り添う鑑賞に読み応えがあります。
by m4s1o3u6e2n9t1n7y | 2012-08-23 15:15